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神戸地方裁判所 昭和60年(行ウ)27号

原告

高橋和子

被告

姫路公共職業安定所長井上勝則

右指定代理人

森本翅充

浅利安弘

石田赳

河越桂子

長浜昭

岩瀬明

大形賀一

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告に対し昭和五七年一二月二五日付けでした雇用保険法(以下「法」という。)による基本手当(昭和五七年一一月二五日から同年一二月二二日までの二八日分)を支給しないとの処分(以下「本件処分」という。)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件処分の存在等

原告は、昭和五七年一一月二五日に被告から雇用保険法施行規則(以下「規則」という。)一九条二項に基づき法一三条に定める基本手当の受給資格者と認定され、所定の認定日前の特定の期間(以下「認定対象期間」という。)の各日について失業認定を請求する権利(以下「認定請求権」という。)を有する者である。

原告は、同日、姫路公共職業安定所(以下「姫路安定所」という。)に出頭した際、被告が原告の雇用保険受給資格者証(以下「受給資格者証」という。)に「一一月二五日出頭」と記載したすぐ横に「次回認定日一二月二三日」と記載したため、原告は次回認定日を「一二月二五日」と誤解し、認定日である昭和五七年一二月二三日には姫路安定所に出頭せず、同月二五日に同所に出頭したところ、被告は、原告が右所定の認定日に出頭しなかったことについてやむを得ないと認められる理由がないとして、本件処分を行った。

2  本件処分の違法性

(一) 本件処分の結果、失業中の原告の生存権が侵害されたので、本件処分は違法である。すなわち、法の目的は一定の条件のもとに失業者の生存権を保障することであり、この生存権は不可侵の基本的人権として規則によってはもちろん法律によっても公共の福祉に反しない限り奪うことのできない権利であり、右認定請求権はこの生存権を具体化するためのものである。本件において、原告が所定の認定日に姫路安定所に出頭しなかったのは、原告の誤解によるものであるから、これにより公共の福祉を害する具体的な被害が発生したとは考えられず、このような場合にも認定請求権は保障されなければならない。しかも、認定日設定の目的が、大量の認定事務を迅速、合理的に処理する必要上設けられたにすぎないのに対し、法の目的が前記のとおり失業者の生存権の保障にあることからすると、右認定請求権は、基本的人権として行政上最大限に保障されなければならない。

(二) 受給資格者が所定の認定日に出頭しない場合にどのような処分をするかは、法及び規則には何らの規定もないのに、被告が規則二二条一項の反対解釈のみを根拠として行った本件処分は、憲法三一条に違反する。

(三) 法一五条は、認定に関する義務及び処分を規則に委任していない。したがって、規則二二条一項は内閣法一一条に違反することとなり、規則二二条一項に基づいてなされた本件処分は違法である。

(四) 原告が、所定の認定日を前記のように誤解したのは原告の過失によるにすぎない。ところで、刑罰における罪刑法定主義によれば、過失は原則として刑罰の対象とされず、過失に対し刑罰を課することができるのは特別の規定がある場合に限られるとされている(刑法三八条一項参照)。右の主義は、行政処分においても準用されるべきであり、原告が過失に起因する錯誤により所定の認定日に出頭しなかったことを理由に行った本件処分は違法である。

3  以上のとおり、本件処分は何れの点からみても違法であるから、原告は前記請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項の事実のうち、原告は昭和五七年一一月二五日現在原告主張の基本手当の受給資格者の認定を受けていたものであること、原告は昭和五七年一二月二三日に姫路安定所に出頭せずに同月二五日に出頭したこと、被告が原告主張の理由により本件処分をしたことは認める、原告が所定認定日に同安定所に出頭しなかった理由は不知。

2  同2及び3項の主張はいずれも争う。

三  被告の主張

1  法に基づく失業給付について

(一) 法によれば、雇用保険の失業給付たる基本手当について、法一三条の受給資格を有する者(以下「受給資格者」という。)が、離職後住所地を管轄する公共職業安定所(以下「安定所」という。)に出頭し、求職の申込みをしたうえ、同人の離職前の事業所を管轄する公共職業安定所長から交付された雇用保険被保険者離職票(規則一七条、以下「離職票」という。)を提出した場合に、安定所の長が受給資格の決定をして、受給資格者証を交付し、その後、受給資格者が右受給資格者証において指定された所定の認定日に出頭し、求職の申込み等所定の手続をし、安定所の長が、認定対象期間の各日について、失業の認定をした日数分の基本手当を支給することとされている(法一五条)。

(二) 受給資格者が基本手当の支給を受ける権利は、安定所の長が、当該受給資格者の失業していることを認定したうえで、同人に対し基本手当の支給決定をすることによってはじめて具体的に発生するものであり、それ以前においては、単に抽象的な保険給付を受ける権利が存在するにすぎない。

すなわち、受給資格の決定を受けた者が基本手当の支給を受けるためには、同人が指定された失業の認定日に安定所に出頭して、求職のための手続等をとり、安定所の長が認定対象期間中の各日について、受給資格者が労働の意志及び能力を有するにもかかわらず職に就くことができない状態にあったと認定する必要があり、右基本手当はこの認定した日数を対象として給付されるものである(法四条三項、一五条一ないし三項、規則二二条)。

基本手当の給付の始期も受給資格者の離職した日にかかわりなく、少なくとも、同人が安定所に離職後最初に出頭した日以降とされること(法一五条二項、三項)からも、基本手当の給付は、受給資格者の積極的な請求及び失業の認定日における積極的な失業状態の立証によって具体化するのは当然である。

(三) 失業の認定日は、安定所の長が、受給資格者の認定対象期間中の各日について前述の失業状態にあったか否かを確認するために設定された日である(法一五条三項、規則二二条)。この認定日は、受給資格者の求職活動その他やむを得ない事情が存しない限り変更されることがなく(法一五条三項、四項、規則二三条)、認定日に出頭しなかった受給資格者は、認定対象期間中の全日について労働の意思又は能力がない者と推定される。

(四) 受給資格者に対する失業の認定日の通知は、受給資格者証の所定個所に失業の認定日を記入して、それを返付することによりなされる。

さらに、安定所は、失業の認定日の重要性等を周知するため、第一回目の受給資格者証交付の際に雇用保険制度に関する説明会を開催しているほか、受給資格者証返付の際には口頭で失業の認定日を確認させ、返付の窓口には次回認定日を知らせる掲示板を設ける等万全を期している。

2  本件処分の正当性について

(一) 姫路安定所は、昭和五七年一一月二五日、原告が姫路安定所に出頭し離職票を添えて求職の申込みをしたので(なお、原告は同年五月二〇日宇和島公共職業安定所で受給資格の決定を受けている。)、同日から基本手当を支給する手続を行うこととし、同年一一月二五日から同年一二月二二日までの二八日間(以下「本件認定対象期間」という。)の失業の認定日を同月二三日と指定し受給資格者証にその旨を明記して原告に返付した。

(二) ところが、原告は、同日に姫路安定所に出頭せず同年一二月二五日に出頭したものであり、出頭しなかったことについて法一五条四項に定める特別の事情が存しなかったので(原告は、認定日に出頭しなかったのは日を間違ったためであると主張しているが、右理由が特別の事情に該当しないことは明らかである。)、被告は、原告が前記期間中失業していたことの確認ができなかったため同期間中の基本手当を支給しなかったものであって、これは、法の趣旨、法の公正、公平な適用上、正当なものであり、被告の本件処分に何らの違法事由は存しない。

第三証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1項の事実のうち、原告は昭和五七年一一月二五日現在原告主張の基本手当の受給資格者と認定されていたこと、原告は本件認定日である昭和五七年一二月二三日に姫路安定所に出頭せずに同月二五日に出頭したこと、被告において原告が右所定認定日に出頭しなかったことについてやむを得ないと認められる理由がないとして本件処分をしたことは、当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない(証拠略)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認定することができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。

1  原告は、昭和五七年一月二五日に愛媛県宇和島市内に所在する四国アパレル株式会社を離職し、同年五月二〇日に宇和島公共職業安定所に出頭して求職の申込みを行い、法による基本手当の受給資格の決定を受けた。

2  その後原告は、同年六月一〇日にその住居を宇和島市和霊町から兵庫県神崎郡市川町に移転したため、同月一一日に姫路安定所に出頭し、住居変更の手続を行った。右届出に基づき、姫路安定所は住居変更に伴う失業認定の移管手続を行うとともに、法二一条に基づく待期期間の失業の認定及び法三三条に基づく離職理由に係る給付制限(昭和五七年五月二七日から同年六月二六日までの一か月間)の処分を行った。

3  原告は、所定の認定日である昭和五七年七月八日姫路安定所に出頭し、昭和五七年六月二七日から同年七月七日までの一一日分の基本手当を受給したが、同月一七日にいたり、昭和五七年七月一九日から姫路市所在の愛地ガラス株式会社に就職することとなった旨の届出をしたため、姫路安定所は、この届出に基づき法一五条三項の規定により所定認定日を変更し、昭和五七年七月八日から同月一七日までの一〇日間分の失業認定を行い、これに相当する基本手当を支給した。

4  原告は、前記会社に約三か月間就労したものの、自己の都合により昭和五七年一〇月二〇日に離職したので、同年一一月二五日姫路安定所に出頭し、受給資格者証に添えて離職票を提出した。

5  姫路安定所は、原告の同会社における雇用期間をもってしては法一三条に定める基本手当の受給資格を満たさないため、従前の受給資格に基づく基本手当のうち所定給付日数の残日数分を原告が出頭した昭和五七年一一月二五日から給付することとし、次回認定日を昭和五七年一二月二三日と指定し、受給資格者証にその旨記載して原告に返付した。

6  ところが、原告は、本件認定日である昭和五七年一二月二三日には姫路安定所に出頭せず、昭和五七年一二月二五日に出頭した(この点は当事者間に争いがない。)。

7  そこで、被告は、原告が本件認定日である昭和五七年一二月二三日に出頭しなかったことについてやむを得ないと認められる理由はなく、また、原告が出頭して失業の認定を求めた昭和五七年一二月二五日は所定の認定日ではないとして昭和五七年一一月二五日から同年一二月二二日までの二八日分の失業認定は行えず、基本手当を支給しないとする本件処分を行った(この点は当事者間に争いがない。)。

三1  法及び規則によれば、基本手当支給に至る手続の概略は次のとおりである。

まず、基本手当の支給を受けようとする者は、離職後の住所地を管轄する安定所に出頭し、求職の申込みをしたうえ(法一五条二項)、同人の離職前の事業所を管轄する安定所の長から交付されている離職票を提出しなければならないとされ(規則一九条一項)、管轄安定所の長は、その者が法一三条の受給資格を満たすと認めたときは受給資格の認定を行い、失業の認定を受けるべき日を定め、その者に知らせるとともに、受給資格者証に必要な事項を記載したうえ、交付することとされている(規則一九条二項)。

そして、受給資格者は、自己が指定された失業の認定日に管轄安定所に出頭し、失業認定申告書を提出したうえ、職業の紹介を求め、安定所の長による失業の認定を受けることとなる(規則二二条一、二項)。この失業の認定は、求職の申込みを受けた安定所において、受給資格者が離職後最初に出頭した日から起算して四週間に一回ずつ直前の二八日の各日について行われる(法一五条三項)。このように、失業の認定は四週間に一回ずつ行うのが原則とされ、受給資格者が、失業の認定を受けるためには管轄安定所に出頭することが要求されているが、受給資格者が職業に就くためその他やむを得ない理由のため失業の認定日に出頭できない場合には、その旨管轄安定所の長に申し出れば、その申出に応じた認定対象期間につき失業の認定を行うことができる(法一五条三項、規則二三条)とされ、また、受給資格者が疾病又は負傷や安定所の紹介に応じての求人者への面接、公共職業訓練等の受講等のために安定所に出頭できなかった場合等にあっては、安定所に出頭できなかったことを記載した医師等の証明書をもって認定日の変更をすることなく失業の認定を行うことができる(法一五条四項、規則二五条ないし二八条)とされている。

2  そこで、まず本件の場合右規則二三条に該当するかどうかであるが、同条にいう「やむを得ない理由」とは、同規則の趣旨、規則の例示等その規定の仕方のほか法第一五条四項との対比からして、就職する場合、法一五条四項各号に規定する場合、安定所の紹介によらないで求人者に面接又は採用試験を受ける場合、各種国家試験・検定等の資格試験の受験あるいは安定所の指導により各種養成施設に入所あるいは各種講習を受講する場合、一定の範囲の親族について受給資格者の看護又はその親族の危篤又は死亡あるいは一定の範囲の親族の冠婚葬祭に出席する場合、選挙権その他公民権としての権利行使をする場合、その他右に準ずるもので社会通念上やむを得ないと認められるものを指すものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、(証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば、原告が本件認定日である昭和五七年一二月二三日に姫路安定所に出頭しなかったのは、被告が原告の受給資格者証(甲第一号証)に「次回認定日一二月二三日」と記載した同じ行に「一一月二五日出頭」と記載したことから原告に錯誤が生じ、次回認定日を「一二月二五日」と勘違いしたためであること(原告の自認するところでもある。)、しかし、右受給資格者証に記載された右各文字はいずれも鮮明であり、しかも「一一月二五日出頭」と「次回認定日一二月二三日」とは同じ行に記載されているものの両者間には数文字記載分の間隔をおいているのでまぎらわしい記載とはいえないことが認められ、同認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、原告の右錯誤は被告の本件認定日の記載方法に起因するやむをえないものとはいえず、したがって、原告が本件認定日である昭和五七年一二月二三日に姫路安定所に出頭しなかったことにつき、法一五条四項に該当するか否かはさておき、右規則二三条にいうやむを得ない理由があるとは到底いえない。

3  次に、本件の場合法一五条四項に該当するかどうかであるが、前記認定事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告には同条項各号所定の事由に該当する事実は見当たらず、また原告が所定の証明書を提出したことも認められないのであるから、原告は同条項により本件認定対象期間につき失業の認定を受けることはできない。

4  なお、原告は、認定請求権は所定の手続を経ると基本手当の受給権になるものであり、法の目的、認定日設定の趣旨からして最大限尊重されるべきで、原告が本件認定日に出頭しなかったことのみをもって本件処分をしたことは違法である(請求原因欄2(一)参照)と主張する。

しかしながら、受給資格者が基本手当の支給を受ける権利は、安定所の長が当該受給資格者の失業したことを認定したうえで、同人に対し基本手当の支給決定をすることによってはじめて具体的に発生し、それ以前においては単に、抽象的な保険給付を受ける権利(原告のいう認定請求権はこの趣旨と解される。)が存在するにすぎないものと解するのが相当である。そして本件において、原告が本件認定日に前記認定の事情により出頭しなかったために失業の認定を受けなかったのであり、これは、原告が保険給付を受ける抽象的な権利を基本手当の支給を受ける具体的権利へと具体化させる手続を自ら怠ったものであるから、原告のいう認定請求権をいかに強調しても本件処分が違法であるとは到底いえない。

さらに、原告は、本件処分が憲法三一条に反すること、規則二二条一項が内閣法に反すること、行政処分にも罪刑法定主義を準用すべきことを主張する(請求原因欄2(二)ないし(四)参照)が、いずれも合理的な根拠と理由のない原告独自の見解にすぎないので、到底採用できない。

5  以上の次第で、原告が本件認定日である昭和五七年一二月二三日に出頭しなかったことをもって、本件認定対象期間につき失業の認定ができないため基本手当を支給しないとした本件処分は適法である。

四  結論

よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田殷稔 裁判官 小林一好 裁判官 横山光雄)

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